丁寧に紳士靴の作り方をあしらった『紳士靴を仕立てる』



本書は、製靴芸術家としても世界的に著名な三澤則行氏の一冊である。紳士靴を仕立てるためのプロトコールを本格的に記した一冊として、刊行は2016年ながら根強い人気を誇っている。

人気の理由は何点かあると思うが、一番は2,200点に及ぶ写真によりビジュアルで靴作りの様子を伝えていることがあるだろう。完成された靴は、通常メスで分解しないと内部構造を見ることができない。という点では、靴作りは、職人の頭の中にしか方法が記録されていないものである。いわゆる暗黙知の世界により成り立っている靴作りは、文章だけでは作り方を示すことができない。そこで役立つのが、画像や動画を中心としたビジュアルツールである。今でこそ、数々の職人がインスタグラムを駆使して底付けの様子など、靴作りの過程をオープンにするようになったが、それまでは技術的な点は秘匿される傾向にあった。時代背景を含めると、三澤氏がこういった本を作成し広く世界に靴作りの工程を一つ一つ丁寧に紹介した功績は大きいと思われる。

本書の構成は、大きく分けて2つ。一つはオックスフォードの作り方、もう一つはダービーの作り方である。それぞれの方法を、以下の手順により紐解いていく。ちなみに製法はハンドソーンウェルテッドである。
①デザイン・型紙制作
②製甲
③吊り込み
④すくい縫い
⑤底付け
⑥かかと付け
⑦仕上げ
極めてシンプルな章立てながら、数々の写真が各工程の進め方を仔細に伝えているので、教科書としての価値が非常に高い。一方で、別に靴作りに興味がない(靴職人を目指しているわけではない)人が見ても、目の肥やしになる構成となっている。紳士靴売り場でのうんちくが100倍以上になること受け合いである。

といってもこの本を読んでしまうと、自ら手を動かして靴を作りたくなるのは間違いない。ものづくりの琴線に触れる一冊として、連休前の4月や7月に読むことをおすすめしたい。

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