靴の本

靴職人ミステリー『シューメーカーの足音』

シューメーカーの足音 (幻冬舎文庫)

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本城 雅人 幻冬舎 2013-10-10

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このミステリーはまさに靴を偏愛する者たちのために、更には靴を作る人たちのために書かれた作品であると言っても良い。

表紙には赤いインクに染まる木型とフォスター＆サンのパンチドキャップトゥのオックスフォード。紳士靴に興味がある人であれば間違いなく興味を引く一冊である。

物語は、ジャーミンストリートにあるとある靴屋から始まる。しかも靴作りの中でも重要な工程である吊り込み（Lasting）をしているシーンからだ。吊り込みとは、木型（ラスト）にアッパーを吸い付かせる工程で、ワニと呼ばれるペンチとハンマーが一体化したような特殊な工具を使って行われる。

この物語は靴作りの細かな描写が特徴的である。それもそのはず、全編に渡る靴づくりの工程に関しては、フォスター＆サンの現役ビスポーク職人である松田笑子氏が監修しているからだ。とすると、物語の舞台はフォスター＆サンのショップ兼工房がモデルになっているのだろう。

ジャーミンストリートにあるフォスター＆サンのショップ

この本は、ミステリーとして読むと若干後悔するかもしれないが、靴作りの工程やそれを取り巻く人間模様として見るには非常に興味深い。ラストメイキングや吊り込みなどは、まるで音が聞こえてくるかのごとく迫力がある。読了した後には、一足、ビスポークシューズを作ってみたくなるかもしれない。

本書を読むのに最適なシーンをアドバイスすると、イギリスのジャーミンストリートやノーザンプトンに訪れる際に、行きの飛行機で読んでみるのがいいだろう。物語には、これらの場所がふんだんにでてくるからである。